令和7年度補正予算案において、中小企業の生産性向上を支援する「生産性革命推進事業」が大きく変化する兆しを見せている。従来のIT導入補助金やものづくり補助金に代わり、「デジタル化・AI導入補助金」という新たな名称が登場した。本稿では、生産性向上・デジタル化支援策の最新動向と、中小企業が活用すべきポイントを解説する。

生産性革命推進事業の全体像

中小企業庁が公表した令和7年度補正予算案では、生産性革命推進事業として3,400億円が計上されている。この中に含まれる補助金として、以下の3つが明記されている。

「デジタル化・AI導入補助金」の登場

従来制度との関係

令和7年度補正予算案の公表資料では、従来の「IT導入補助金」「ものづくり補助金」という名称は見当たらず、「デジタル化・AI導入補助金」という新たな名称が登場している。

現時点で詳細は不明であるが、以下の可能性が考えられる。

1. IT導入補助金とものづくり補助金が統合される
2. 新たな補助金として創設される
3. 名称変更のみで制度は継続される

公募要領の公表を待つ必要があるが、いずれにしてもデジタル化・AI導入への支援が強化される方向性は明確である。

AI導入支援の強化

近年、生成AIをはじめとするAI技術が急速に普及しており、中小企業においてもAI活用による業務効率化・生産性向上への関心が高まっている。

AI導入による効果例

• 顧客対応の自動化（AIチャットボット）
• データ分析・需要予測
• 製造工程の最適化
• バックオフィス業務の効率化
• マーケティングの高度化

中小企業庁の調査によると、AIやビッグデータなどを活用している企業の半数以上が売上の増加傾向にあることが明らかになっている。

既存の省力化投資支援

令和7年度補正予算案では、省力化投資支援として既存基金1,800億円規模の活用が予定されている。

中小企業省力化投資補助金

中小企業省力化投資補助金は、人手不足解消に向けた省力化投資を支援する制度である。

制度の特徴

• カタログ型：事前登録されたカタログの中から設備を選択
• 一般型：2025年から新設。自社に適した設備を自由に選択可能

令和7年度補正予算案では、従業員規模ごとの補助上限額の見直しなど、業種別の「省力化投資促進プラン」を踏まえた制度改善が行われる予定である。

革新的製品等開発や新事業進出支援

既存基金1,200億円規模を活用し、中小企業等の革新的製品・サービス開発や海外を含む新市場への進出等に係る設備投資等を支援する。

中小企業新事業進出補助金

2024年度まで人気の高かった「事業再構築補助金」の後継として、2025年から「中小企業新事業進出補助金」が新設されている。

※補助金の下限は750万円

既存事業とは異なる新たな分野への進出を目指す中小企業にとって、AIを活用した新規事業開発なども補助対象となり得る。

持続化補助金の継続

小規模事業者持続化補助金は、販路開拓や業務効率化のための経費を広く補助対象として活用できる制度であり、令和7年度補正予算案でも継続される。

補助対象経費の例

• ウェブサイト作成・改修費
• チラシ・パンフレット作成費
• 展示会出展費
• 機械装置等購入費
• AIチャットボット導入費
• 顧客分析ツール導入費

小規模事業者にとって、比較的申請しやすい補助金制度として引き続き活用が期待される。

事業承継・M&A補助金

中小企業の生産性向上や持続的な賃上げを目的とした事業承継に際する設備投資、M&AおよびPMI（Post Merger Integration）の専門家相談費用を支援する制度である。

後継者不在の中小企業にとって、事業承継やM&Aは経営課題解決の有力な選択肢となっており、本補助金の活用により円滑な事業承継を進めることが可能となる。

物価高・米国関税への対応

令和7年度補正予算案では、物価高や米国関税影響を踏まえた「ソフト支援」も実施されることが明記されている。

資金繰り支援

• 信用保証制度におけるメニュー新設等：152億円
  • 経営改善や事業再生に取り組む中小企業への保証料補助
• 日本政策金融公庫等による資金繰り支援事業：40億円
  • 米国関税措置の影響を受けた事業者等への融資支援

取引適正化

• 2026年1月施行の中小受託取引適正化法・受託中小企業振興法の周知徹底
• 下請Gメンによる取引実態調査の強化
• 価格交渉促進月間フォローアップ調査による発注者への指導

補助金活用のポイント

複数の補助金を比較検討する

中小企業が利用可能な補助金は複数存在する。自社の経営課題と照らし合わせて、最適な補助金を選択することが重要である。

申請準備のスケジュール

1. 即時対応
   • GビズIDプライムアカウントの取得
   • 経営課題の棚卸し
2. 公募開始前
   • 事業計画の骨子作成
   • 必要書類の準備
   • 認定支援機関への相談
3. 公募期間中
   • 公募要領の精読
   • 申請書類の作成・提出

まとめ

令和7年度補正予算案において、中小企業の生産性向上・デジタル化支援は一層強化される方向にある。特に「デジタル化・AI導入補助金」の登場は、AI活用による業務効率化を目指す中小企業にとって追い風となる可能性が高い。

ただし、各補助金の公募要領や申請スケジュール、採択方針などは今後の公表を待つ必要がある。SNS等での「廃止だ」「もう終わりだ」といった極端な情報に惑わされず、公式情報をベースに準備を進めることが重要である。

補助金の有無にかかわらず、デジタル化やAI活用は中小企業の競争力強化に不可欠な取組である。補助金はあくまでその取組を後押しするツールとして位置づけ、本質的な経営改善につなげていくことが求められる。

参考情報

• 中小企業庁「令和7年度補正予算案（中小企業・小規模事業者等関連予算）」
  • https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/r8/r7_hosei.pdf
  • https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/yosan/index.html
• IT導入補助金公式サイト
  • https://it-shien.smrj.go.jp/
• 補助金活用ナビ（中小機構）
  • https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_guide/subsidy_info/r7_schedule.html
• 中小企業庁担当者に聞く「IT導入補助金2025」
  • https://mirasapo-plus.go.jp/hint/28998/