令和元年補正(2020年実施)ものづくり補助金の申請要件の実効性担保について
令和2年1月23日に、中小機構のHPにて
令和元年補正(2020年実施)ものづくり補助金に関して、
現状公表されている資料の「事務局公募の公募要領」で、
『ものづくり補助金の申請要件の実効性担保』
が記載されています。
この『申請要件の実効性担保』はものづくり補助金の制度においてとても重要な変更ですので
現時点で判明している情報(R2.1.24)をベースにご紹介します。
実効性担保とは?
まず、今回(令和2年:2020年実施)のものづくり補助金では
申請要件(申請するにあたって最低限クリアすべき事柄)の大幅変更がある予定です。
具体的に、申請要件は下記のようになっています。
申請要件
以下の要件のいずれも満たす3~5年の事業計画を策定し、従業員に表明している中小企業・小規模事業者等。(ただし、申請締め切り日前10ヶ月以内に同一事業(令和元年度補正ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業)の採択決定及び交付決定を受けた事業者を除く。)一 事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上増加)二 事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
三 事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%増加
(付加価値額とは、営業利益、人件費、減価償却費を足したもの。)〈以上、「事務局公募の公募要領」より抜粋〉
給与総額、最低賃金、事業者全体の付加価値額の増加に関して、
それぞれ高い増加率が求められています。
今までのものづくり補助金では、少なくとも経常利益と付加価値額に関して、
高い増加目標を計画する必要がありました。
しかし、今までは事業計画の結果がどのようになったか、ということを毎年の事業化報告によって
報告する義務はありましたが、その実効性を担保することまではしていませんでした。
今回からはその事業計画の結果を報告するだけでなく、未達であった場合は補助金返還等のいわゆる罰則が
発生する「実効性を担保」することになりそうです。
具体的な実効性担保
実効性担保は大きく3つに分けることができます。
それぞれについてご紹介していきます。
実効性担保その1【賃上げ引上げ計画の表明】
・申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を従業員に表明することが必要。交付後に表明していないことが発覚した場合は、補助金返還を求める。
〈「事務局公募の公募要領」より抜粋〉
賃上げ引上げ計画を従業員へ表明していないことが発覚した際は、補助金返還を求められます。
今までのものづくり補助金も、加点で賃上げ表明があったのですが、
おそらくその表明が従業員にまで浸透していない事業者がおおかったので
今回から、こういった表明の実効性担保を求めるようになったのでは、と思います。
補助金を申請するにあたっての事業者の「賃上げの本気性」を政府は求めています。
実効性担保その2【給与支給総額の年率平均1.5%以上増加目標必達】
・事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上増加目標が達成できていない場合に、交付決定の一部取消によって、導入した設備等の簿価又は時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還を求める。
・ただし、付加価値額が目標通りに伸びなかった場合に給与支給総額の目標達成を求めることは困難なことから、給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均/2」を越えている場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めない。
・また、給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認める。
〈「事務局公募の公募要領」より抜粋〉
事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均1.5%以上増加目標が達成できていなければ補助金を一部返還する必要があります。
事業計画を5年にした場合、5年後には給与支給総額が少なくとも7.5%増加させておく必要があります。
注意が必要なのは「給与支給総額」で算出すると、
従業員数が減少してしまうと達成はより難しくなりますし、
逆に従業員数が増加すると達成はより現実的なものとなります。
しかし、人手不足の昨今、中小企業にとっては人材の確保は年々厳しくなっていますし、
定年による退職者も多いため従業員を増加するのは容易ではありません。
つまり、給与支給総額で考えるとその目標の達成もハードルが高いです。
そういった事業者への救済措置として、一人あたりの賃金増加率が同程度の達成でも認めるという、要件が補足されていると思われます。
また、「一部返還」は実際どれくらいになるか、というのを簡易計算したものを下記に例示します。
【一部返還の定義抜粋】
交付決定の一部取消によって、導入した設備等の簿価又は時価のいずれか低い方の額のうち
補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還を求める。
【計算の前提】
・補助金で1500万円の設備導入し、補助金1000万円受領したとする。
・事業計画終了時点で時価が450万円になっているとする。
・簿価と比べて時価が低いものとする。
・消費税等は考慮しない。 など
【前提の場合の返還額】
残存簿価等×補助金額/実際の購入金額=450万円×1000万円/1500万円=300万円
つまり、丸々1000万円変換せよということではないですが、
突如これだけの金額を返還して、キャッシュが減少するとなると事業者にとっては大打撃です。
これだけ返還する可能性があるのであれば、変換されることになるよりは、
返還金相当額以上を原資に賃上げにあてるほうが良いですね。
実効性担保その3【事業場内最低賃金の増加目標必達】
・事業計画中の毎補助事業年度終了時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合に、交付決定の一部取消によって、補助金額を事業計画年数で除した額の返還を求める。
〈「事務局公募の公募要領」より抜粋〉
事業計画中の毎補助事業年度終了時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていないと補助金返還が求められます。
「毎補助事業年度終了時点」というのがシビアで、つまりは毎年チェックされる、ということですね。
補助金額の返還を例示すると
例えば1000万円の補助金で5年間の事業計画だとすると、
達成できていない年は1000÷5=200万円を返還する必要があります。
5年間毎年達成できなければ結局1000万円すべて返還することになってしまいます。
実効性担保ほか【ただし絶対に返還が必要ということでもない】
ただし、付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めない。
〈「事務局公募の公募要領」より抜粋〉
近年多発している天災の影響で業況がどうしても落ち込んでしまったり、
会社の付加価値額増加率が年率平均1.5%に達しない場合など、
賃上げの原資がどうしても確保できなかった場合は補助金返還は求められないようです。
確かに、そうしないと会社が倒産してしまい、従業員が路頭に迷うことにもなりかねませんからね。
まとめ
今後のものづくり補助金は、毎年の事業化報告においてその事業計画の結果を報告するだけでなく、
未達であった場合は補助金返還等のいわゆる罰則が
発生する「実効性を担保」することになりそうです。
よって、単に補助金が出やすいような事業計画でなく、
実際に達成できて従業員も事業者も豊かになるような
実現可能性の高い事業計画を策定する必要がでてきます。